事前の予定では、私は仕事に出勤だった。妻が美容院へ行くと言うことで、ベビーシッターさんを呼んでいた。上の子と下の子の相手を連れて妻は美容院に行けないからだ。しかも行き先が埼玉のほうにあり、片道2時間ちょっとかかる場所が行きつけのようだった。なんでわざわざそんなところに行くのかと言うと、昔から長い付き合いで自身の髪型についてよく知っているからだと言っていた。腕の良い美容院なら近くを探せば見つかるはずだが、それをしないと言う事は、話し相手として喋りたいからだろうとも思う。そう考えると、美容院は本人の納得の行くレベルであり、世間話や近況報告など喋りたい相手であるとも言える。
その日、私は仕事がお休みになった。ベビーシッターさんが子どもの面倒を見てくれているのに、私も自宅でいるとお金と時間がなんだかもったいないような気がして、外出することにした。特にここは絶対行きたいと言う所はなかったが、子連れではいけないところ、妻にならって髪を切りに行くことにした。私は床屋にそんなこだわりはないが、あまりにも安いところは店員と腕にばらつきがあるので、行ってみなくてはわからないと言うドキドキ感はある。そのような安いところは大抵混んでいるため、待ち時間が長いことが多い。そう考えると、早くて安くて回転が早い、行きつけの床屋へ私も行くことにした。特に話し相手が欲しいわけではないが、そこは実家が近いこともあって、実家へついでに寄るのもありだと思った。
目的の床屋へ行った。珍しくお客さんは全くおらずガラガラだった。お店に着くとすぐ対応してもらえた。初めて店員さんで耳の聞こえない人がいた。なぜそれがわかったかと言うと、自分の髪の毛を切ってもらうためにリクエストを出すのだが、その時おもむろにスマートフォンの画面を見せられ、「耳が聞こえないので、録音の文字起こしでオーダーして欲して下さい」とのメッセージがあり、録音と文字起こしが始まった。突然のそれに驚きつつ、要望を伝えた。普段から理容師さんと話すことや細かい要求はしないので、特に困ることはなかった。腕も許容範囲内であったため、問題はなかった。